SSSs Special 4


 普段、真田は余り口淫をさせてくれない。
 と言うかその余裕を与えてくれない。
 いつでも気がつくと嶋本ばかりが追い詰められて、追い立てられて。
 「俺も口でしましょうか」……と言い出すのもなんだか直球過ぎて言えなかった。
 真田にも気持ちよくなって欲しいのに。

***

 真田の膝から降りると、床に膝を付き、真田の両足の間に身体を割り込ませた。
 察した真田が「嶋」と咎めるような声をあげたが、聞こえない振りをする。
 そのまま真田の分身に舌を這わせる。
 もうしっかり形を成しているそれを舐め上げて、口に咥えた。

「……」
「……気持ち悪いですか?」
「……いや」
「ほんなら、気持ちええ?」
「ああ」

 良かった、と嶋本は再び舌を動かし始めた。
 膝の合間から見上げる真田は目隠しされたままの顔を仰向かせて、時折唇を噛んだ。
 声を殺して仰け反った喉が唾液を飲み込む動きに、嶋本も熱を帯びる。
 視線を落とすと、ソファの上で握り締められた大きな手。

 ――いつも、この手で、イかされてるんや。

 真田を口に含みながら、そっと片手を自分の股間に添えて、いつもの真田の指の動きを反芻する。
 大きな手。
 長い指。
 嶋本を追い立てる、その動き。

「ん」

 声を漏らしたのは嶋本だった。
 真田を咥えたままなので、くぐもった響きになってしまった。
 その振動もきっと伝わっただろう。

「嶋……?」

 真田には見えていない。
 真田を口淫しながら、自分で自分を慰めているなんて、気付いていないだろう。
 真田の下肢からズボンを引き下ろして、舌の動きを早めた。

「……っ、くっ」

 その動きが真田を絶頂に誘う直前に、すっかり上向いた性器から嶋本は口を離した。
 そのまま身体を引いて、立ち上がってしまう。
 急激に高められて突如止んだ愛撫の波に、真田が嶋本の名を呼ぶ。
 応えず、嶋本は服を脱ぐ。
 真田の耳には衣擦れの音だけ聞こえているはずだ。

「……まだですよ」

 掠れた声で、そう言った。
 まだ。
 まだ、触らないで。
 まだ、見ないで。

 目隠しのまま、ソファに全裸で身体を預けた真田を見下ろしながら、嶋本は最後の服を脱ぐと、再び真田の膝の上に乗った。
 自分の性器に指を絡めて、上下に擦る。

「ん、……んっ」

 触れ合った肌から、真田の熱と嶋本の熱が交わる。
 ふと、視線を落とすと、絶頂間際に放り出されたそれが、恨めしそうに天を仰いでいるようでおかしい。

「はは、……あ、……あっ」
「嶋……っ」
「駄目、……まだ、……ぁ、っあ」

 「真田翻訳機」と呼ばれているのは伊達ではない。
 真田の唇からならどんな端的な言葉だって完璧に悟ってみせる。
 「嶋」という呼び声は、「お前に触りたいんだ」と聞こえた。
 その後吐き出された吐息が、どれだけ自分を欲しているのかを表すかなんて。

「……ァ、あ」

 一人でいる時、真田を思い浮かべながら自慰に耽る事はままあった。
 今、目の前に真田がいて、同じことをしている自分に興奮した。
 どんなに醜態を晒しても、今の真田には見えないのだ。
 でも、声は伝わる。
 息遣い、濡れた厭らしい水音も。
 真田が眉を顰めているのが判る。
 ソファの上で握り締められた指が、白くなっているのも見えた。

 ――隊長。
 ――今、隊長の頭ン中で俺はどんな事してますか。
 ――ねえ、多分、隊長の想像より、ずっと俺は淫乱です。
 ――貴方が欲しくて欲しくて欲しくて、堪らない。

「隊長……」

 その指で触って欲しい。
 その唇で吸って欲しい。
 本当は、「まだ触るな」なんて勝手な約定、踏みにじってくれて構わない。

 そう思った時、真田が一つ息を吐いた。

「嶋、もう限界だ」
「え……あっ!」

 焦がれて止まない大きな手が、嶋本の両腕を押さえると乱暴に口付けてきた。
 一度で覆えなかった唇は、二度目で深く交じり合う。
 噛み付く、と言う表現の方が相応しい口付けに文字通り総毛立つ。
 唇を離すと、真田は目隠しのネクタイを掻き捨てた。
 捕まえたままの両腕を横に引いて、嶋本をソファに押し付けるように横たえた。

「たい、」

 ぞくり、と背筋が一瞬の恐怖の為に竦む。
 見上げた真田の瞳はさながら飢え切った肉食獣の獰猛さで嶋本を見据えている。
 微かな指の動きさえ喰らい尽くされそうだ。
 乾いた唇を湿らす為の舌の動きが、野生の獣が獲物を見つけて舌なめずりをする様に良く似ていた。

「覚悟してくれ。今日は優しく出来ない」

 真田の僅かに汗ばんだ掌が嶋本の身体をくるりと反転させた。
 腰を引き寄せられると、自然と四つん這いの形になった。

「あっ、……い、……痛っ」

 唾液で湿らせた指を嶋本の後孔へ宛がうと、ぐっと押し込む。
 反射的に強張る身体は、それでも期待に疼き出した。
 始めこそ拒むように押し返していたそこが、誘い込むように解れて来る。
 それを見逃さず、真田が一気に熱を進める。
 嶋本が煽って焦らした熱。
 欲しくて堪らなかった、ああ、ああ、今。

「は……あぁっ!」

 引き攣れる痛みは、まだ完全に解れ切っていないからだ。
 純粋に痛みに震えて涙が浮かんだ。
 けれどその後感じたのは、内側を犯す圧迫感と、焦げ付きそうな程の熱と。
 普段聞いたこともない、切羽詰った息遣いと。
 それを齎しているのがすべて真田であるという事実と。

「あっ、あっ、あ、あ」

 押し入られた痛みに少し萎えた嶋本の性器は、真田が刻み始めた律動にあわせて再び形を成していった。
 いつにない性急な動きは、余裕のなさを物語っている。
 獣の姿勢で貫かれて、嶋本はソファの縁を握り締めながら喘いだ。
 いつもなら、優しく名前を呼んで、嶋本の準備が出来るまで待ってくれる真田は、名前を呼ぶ代わりに肩口に歯形が残るほどに噛み付いた。
 焦らした罰だ、とも取れた。
 乱暴な行為は、けれど何故だか嬉しくて、やっぱり笑ってしまったらまた噛み付かれた。


SugakoSatoh@√310