「九天の鳥篭」
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「その侭廓抜けしてればまだ可愛げのあるもんを、どの面下げて戻って来てんだ、あァ?」 「ええやんか、戻って来たんやし」 「もっと悪びれろこの馬鹿!大体、折角の客を殴り倒すたぁどういう了見だ」 「おっそろしく下手糞で、おかしな趣味持ちやったから」
しれっと言い放つと、「あー、眠い」と自室の襖を開ける。
「昨夜のか、これは」 二階にある自室の窓辺に座って、大きなあくびを一つする。
「借金のカタに俺が来たってんねやから、その時点で糞親父の借金はチャラの筈や。その後俺が稼いだ金で俺が酒飲んで何が悪いっちゅーねん」 襦袢の襟を撫でて、シマは内緒話でもするように小声で黒岩に囁く。
「帝都で、屋根付きの一人部屋が貰えて、三食出て、金もまぁちょこちょこ稼げて、ついでに気持ちええ事が出来るなんて仕事他にあらへんやろ。楼主のダミ声は耳障りやけどどうして案外人もええしなー」 小突かれて涙目になったシマに、黒岩が嘆息する。
「なぁシマよ、お前売れっ子なんだからその気になりゃァ身請け先だって選び放題じゃねえか。ほれ、高嶺様ん所の次男坊、あれなんかどうだ」 窓の外を見ながら、シマは呟いた。
「身請けなんかごめんや。ええべべ着せてもろて、ええもん食えて、てのは魅力やけどな。おんなじ鳥篭なら、自由に出入り出来るここの方がええ」
誰のものにもなれないから、誰も要らない。
「難儀な奴だ」 黒岩は処置なし、とばかりに大きくため息をついた。
「シマ。昨夜の脱走で今日はちょっとした話題だ。お前店先で格子に入って客寄せしてろ」
どこまでも堪えないシマにもう一発拳骨をくれてやって、黒岩は部屋を出た。 |
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SugakoSatoh@√310