もうちょっとおって 1 


「何でおんねん」

 出会い頭に喰らうにはあまり有難くない挨拶である。
 それでも言われた方は気にした様子もなく――慣れだとすれば哀れだが――少し考えて口を開いた。

「……敢えて言うなら、わしが二隊だからじゃろうか……」

 ああ、と嶋本は今更思い当たったように頭を掻いた。
 引継ぎを終えて、腕のダイバーズウォッチは九時を過ぎている。

「そうやったな。……どうや、二隊は」
「まだ海難らしい海難がないけ、なんとも。……兵悟は出動一番乗りじゃったそうじゃが」
「あー……ま、及第点てとこやけどな」

 苦笑する元教官の顔をまじまじと見つめて、大羽は首を捻った。
 違和感を感じる。

「軍曹、……あ、いや……嶋本隊長」
「なんや」
「元気ですか?」
「病気に見えるか?」
「……病気には見えんけど」
「ほならそうなんちゃうか」
「元気なさそうに見えたもんじゃけえ」

 一瞬嶋本が瞠目するのを見逃さなかった。
 罵声か拳か、どちらが飛んできてもいいように、大羽は身を構えた。
 しかし予想していた衝撃は訪れず、代わりにどこか遠くの方から声が聞こえた。

「……ほならそうなんちゃうか」

 目の前にいる嶋本の声が、どうして遠いと感じたのか、大羽にはまだ判らなかった。

「軍曹」
「なんや」
「こがあな事言うとまた怒るかもしれんのじゃけど」
「じゃぁ言うなや」
「軍曹の方が新しい隊に慣れとらん気がする」
「言うな言うたやろ」
「軍曹」
「なんやねん」

 頭一つ半低い所から見上げられているのに、その不愉快を顕わにした視線に圧迫される。
 パブロフの犬のように、条件反射で思わず謝りそうになる身体を抑えて、大羽は続けた。

「……わしで良けりゃあ、その、相談に……」

 今度こそしっかりと嶋本は瞠目した。
 見開いた目は瞬きもしない。
 二人の間に沈黙が流れること暫し、嶋本が笑った。

「ヒヨコに心配されるなんぞ、俺もヤキが回ったもんやの」

 そのまま踵を返すと、嶋本は基地内に戻って行く。

「軍そ……」
「今日」

 追いかけようと踏み出した右足が地を蹴る前に、振り向かないままの嶋本の背中が答える。

「今日、何もなくて、当直が明けたら自分の部屋行くわ……それでええやろ」


真昼の夢様より「関西弁でお題」10c挑戦中

SugakoSatoh@√310