法事だったんだ、とその人は言った。
***
「うわあ」
「なんだ」
「スーツや」
「法事だったんだ」
律儀に靴を並べて、嶋本の部屋へ上がる。
まじまじとそれを見詰めたままの嶋本に、もう一度「なんだ」と問う。
「や、似合うな、と思て」
「そうか?」
「むっちゃかっこええ」
如才ない褒め言葉に真田は僅かに口角を持ち上げる。
スーツの上着を脱ごうとすると、嶋本があ、と声を上げた。
「待って、待って」
「どうした」
「もちょっと、堪能したい」
「何をだ?」
「隊長のスーツ姿」
「嶋本はたまによく判らないものに興味を抱くな」
「隊長のスーツ姿はよく判らないものとちゃいますよ。も、なんやろ。萌え対象?」
「……」
土産の紙袋を嶋本に渡すと、勝手知ったる足取りで、リビングへ歩く。
「あ、引きました?」
「いや……よく判らないだけだ」
最近買ったと言うソファに腰を下ろす。
三人掛けだが、男二人には丁度いい。
テーブルに土産の袋を置いて、嶋本が隣に座る。
いつもより、どこか楽しそうだと思ったので、そう口にした。
「楽しいっちゅーか」
「『萌え対象』?」
「はは。忘れてください」
「しかし少し暑いな」
「あ、ビールありますよ」
「頂こう」
はあい、と間延びした返事をして、嶋本が台所へ消えた。
少しして両手にビール缶を持って戻ってくる。
冷えた缶を真田に渡して、嶋本はソファに座り直した。
「そいじゃ、お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ様」
決まりの挨拶をして、缶をあわせた後も、嶋本は真田がビールを飲む姿をうっとり眺めていた。
「隊長、ほんまに男前や……」
「着ているものだけではそんなに変わらないだろう」
「いつも思うてるんですけどねー。今日は、も、……や、なんだか見ててどきどきする」
そんなに嬉しそうに言われると、いつもはどきどきしないのか、と、意地悪な事を聞いてしまいたくなる。
漸く自分のビールに口をつけた嶋本は、それでも真田から目を離さない。
ほう、と溜息を吐くとソファの上に膝を持ち上げて、顔を埋めてしまった。
「未亡人に欲情する奴らの気持ちが判る……」
「嶋本は感受性が強いんだな」
「……いやー。そう来ましたか」
「ところでそろそろ脱いでもいいだろうか」
えぇ、と嶋本は声を上げた。
肯定の意味の「えぇ」ではない。
異論を含む意味の「えぇ」だ。
「もちょっと、色んな角度から見たい」
「それは構わないが」
物好きだな、と言うと、ちゃいますよ、と返ってきた。
「物好きなんとちゃうくて、隊長が好きなんです」
「……今日は大サービスだな」
「俺いつも言うてますやん」
「昼間俺がそう言う事を言うとお前は怒る」
「基地で言う事とちゃうやないですか」
「だが、いつも思ってる」
そう言って真田が目を合わせると、嶋本は口篭って俯いた。
少し上気したような頬に指を伸ばして、軽くキスをする。
「おいで」
重ねた手を引かれると、嶋本は真田の膝に乗り上げた。
真田の短く切り揃えられた髪に指を差し入れると、もう一度、今度は嶋本から口付ける。
「……ねぇ、隊長」
「ん」
「脱がしてもええ?」
キスの合間の嶋本のおねだりに、真田は構わない、と答えた。
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