もうちょっとおって 3 


 その後会話が続かず、ただビールの空き缶だけが重なった。
 大羽も口を開かなかったが、嶋本も何も言わなかった。
 下手に突っ込まれなかった分、有難かったけれど、なんだか肩透かしを喰らった感じもする。
 最後のビールを飲み干してしまった大羽は、まだ缶を傾けている嶋本を一度見やる。

 ――買い足しに行くかのう。

 そう思って畳から立ち上がろうとする大羽の服の裾が、何かに引かれた。
 引かれた裾には指がついていて、指から手の甲、腕を視線が辿ると、嶋本の横顔に行き着いた。
 大羽の方を見ないまま、片手で裾を引き、空いた手に持ったビールの缶の縁を齧っている。

「……あの、わしコンビニに」
「「相談」に乗ってくれんねやろ……したら一つお願いきいてや」

 小さな声で呟かれた言葉に、大羽は立ち上がりかけた腰を再び下ろす。
 その大羽の肩に、こつん、と熱と重みが凭れかかる。
 嶋本の額が寄り添っているのだと気付くのに、数十秒を要した。

「軍、曹」
「……もうちょっとおって」

 ――もうちょっとおって
 頭の中で呟きを反芻すると、収まりかけた鼓動が再びばくばくと脈打ちだした。
 軍曹、と呼びかけて、思いとどまり、唾を飲んだ。
 嶋本の肩に遠慮深げに指を乗せる。
 咎められなかったので、今度は掌でそっと包んだ。

「……進次さん」

 呼んだ。
 呼んでしまった。
 呼んでおいてなんだけど。

 ――どうしたもんじゃろう。
 ――ちぃと調子に乗りすぎたじゃろうか……

「今の」

 ごめんなさいちょっと色々調子に乗りました、と土下座しかけた大羽に、嶋本が笑った。

「ちょっとええな」
「えっ……」
「もっかい呼んで」
「……いいんですか」
「おう、許す」

 大羽は咳払いと深呼吸を二回ずつすると、秘め事のようにその名を囁いた。

「進次さん」

 うん、と頷いたその人を、改めて好きだと思った。


真昼の夢様より「関西弁でお題」10c挑戦中

SugakoSatoh@√310