もうちょっとおって 3
|
その後会話が続かず、ただビールの空き缶だけが重なった。 大羽も口を開かなかったが、嶋本も何も言わなかった。 下手に突っ込まれなかった分、有難かったけれど、なんだか肩透かしを喰らった感じもする。 最後のビールを飲み干してしまった大羽は、まだ缶を傾けている嶋本を一度見やる。 ――買い足しに行くかのう。
そう思って畳から立ち上がろうとする大羽の服の裾が、何かに引かれた。
「……あの、わしコンビニに」
小さな声で呟かれた言葉に、大羽は立ち上がりかけた腰を再び下ろす。
「軍、曹」
――もうちょっとおって 「……進次さん」
呼んだ。
――どうしたもんじゃろう。 「今の」 ごめんなさいちょっと色々調子に乗りました、と土下座しかけた大羽に、嶋本が笑った。
「ちょっとええな」 大羽は咳払いと深呼吸を二回ずつすると、秘め事のようにその名を囁いた。 「進次さん」
うん、と頷いたその人を、改めて好きだと思った。
|
||
SugakoSatoh@√310